オルタナティブ10話「沈黙の呪文は呼び声の魔法」 (回想) ○病院 廊下で、絵本(人魚姫)を読んでいる幼い邦道。鼻歌。 そわそわしている邦道の父親。 邦道、父親の様子に不審なものを感じ、時折盗み見る。 と、手術中のランプが消える。 鼻歌を止める邦道。 出てくる医者。父親と何か話す。 首を振る医者。 顔を上げる邦道。瞬き。 ○河原 ボート乗り場。 トウルルルルル(電話の発信音)。 その近くにある休憩所。 トウルルルルル。 そこで、電話を借りている邦道。 トウルル、ガチャ。  アダム『……はい』  邦 道「もしもし! アダムか!? 俺だ!」  アダム『はぁ? 悪いけど、振り込めって言われても俺金ないですよ』  邦 道「違う!」 アダムの部屋。 寝ぼけて眼でケータイを持っているアダム。  アダム「え、もしかして邦道か? 何だよ、んな慌てて」  邦 道『お前、無事なのか……?』  アダム「はぁ?」 再び河原。  アダム『無事も何も、今日は一日寝てただけだぞ。平和なもんだ』  邦 道「寝て……た?」  アダム『ああ。なんかあったのか?』  邦 道「……いや、なんでもない。無事ならいいんだ」  アダム『へ? おい』  邦 道「悪かったな、起こして」  アダム『おい、邦道?』 がちゃん。 アダム、ケータイの液晶を見ながら。  アダム「なんだ、あいつ」 休憩所から出てくる邦道。 杖を抱いて近付くリティ。  邦 道「待たせたな。――アダムは無事みたいだ。しかもあいつ、今日のことは覚えてないって」 ほっとして、肩の力を抜く。  邦 道「リティ。ルフっていう奴が言ってたんだ、戦争がはじまるって。アダムのことを教えてくれたのも、そいつだ。……教えてくれるか。今、一体何が起きてるのか」 リティ、真面目な顔で頷く。 ○潜水艦 肘掛の先端を指で叩いているヒムラー。  男 A「現状、全ての戦場で我が軍が優勢に歩を進めています」  男 B「勝利は時間の問題でしょう」  ヒムラー「油断をするものではありませんよ」  男 A「は。申し訳ありません」  ヒムラー(――確かに、今はすべて思う通りに進んでいる。だが――) 一度目を閉じ、また開く。  ヒムラー「ダビデの烙印の出力を上げてください。速攻で片をつけます」  男 A「Ja」 ○魔界 マジカルソビエトを覆う六芒星の光が強くなる。 ソビエト兵が膝をつき、ドイツ兵にやられる。 ○林の中 リティの手の中で、杖が箒に変わる。 邦道、真剣な顔で頷く。 (回想・遡ること数分) ○河原  邦 道「つまり、魔界で戦争が起きてて、勝つために俺らの力がいるってことだな」 ノートを持って、頷くリティ。  邦 道「――行こう、リティ。戦争なんて野蛮な手段に出るやつらに、負けるわけにはいかないよな」 見詰め合う二人。 ○林の中 箒にまたがり、邦道を見るリティ。 邦道、リティの後ろに乗る。 リティの細い肩に躊躇いながらも、ちゃんと肩につかまる。 少し地面から浮く。戸惑う邦道。 心配そうに振り返るリティ。  邦 道「ああ、大丈夫だ。いつでもこい」 頷くリティ、前を向く。 風が巻き起こる。 箒が発進。加速し――空中に消える。 ○狭間の世界 いかにもな異空間。 周囲に浮かぶ、思想家たちの肖像。 箒に乗っているリティと邦道。風が吹き付け、バサバサと髪がなびいている。 と、視界の端が光る。 その瞬間、電撃がリティを貫いた。  リティ「っ!」  邦 道「なっ!?」 落下していくリティと邦道。 気絶しているかのように落ちていくリティ。邦道が手を伸ばす。  邦 道「く……!」 その手がもうすぐ届くというところで、別の細い手が邦道の腕をつかんだ。  ノイジー「ごめんね、巻き込んじゃって。でもでも、安心して。邦道君に怪我はさせないからっ」 驚く邦道。 暗転。 ○マジカルドイチェ 夜。 広がる廃墟。 古城。 廃墟の一角で、目を覚ます邦道。  邦 道「う……ここは?」  ノイジー「ここはね、マジカルドイチェ」 瓦礫の上、満月を背負い微笑むノイジー。 見上げる邦道。角度的に、きっと邦道からはパンツ見えてる。  ノイジー「自分の国家と民族に、誇りを持つ人たちの国だよ」  邦 道「ノイジー……」 少し離れたところで、リティが瓦礫を押しのけて立ち上がる。 薄汚れているリティ。  邦 道「リティ! 無事か!」  ノイジー「心配しなくても、あんな不意打ちで倒したりしないよ」 邦道とリティの間に降り立つノイジー。 リティと向き合い。  ノイジー「リティには真っ向勝負で勝って、マイノリティの正しさを証明するんだから」 ○マジカルドイチェ 廃墟が見下ろせる崖の上。 佇んでいるゲッベルス。  カメンスキー「不安か。雄弁の魔女が」 後ろから声をかけるカメンスキー。ツタンカーメン。  ゲッベルス「プレハーノフ」  カメンスキー「私はカメンスキーだ」 ゲッベルス、廃墟に視線を戻す。  ゲッベルス「マジカルドイチェの科学力は魔界一よ。記憶封鎖が解けることはありえないわ」  カメンスキー「そう言い切れないからこそ、監視をしているのだろう。心配ならば、貴様も戦いに加わればどうだ」  ゲッベルス「ヒムラーも、そんなことを言ってたわね」 ゲッベルス、ため息。  ゲッベルス「でもね。ノイジーが一人で決着をつけたいなら、そうさせてあげたいのよ」  カメンスキー「下らん情でも移ったか」  ゲッベルス「そうかもしれないわね。ずっとあの子の面倒を見てきたのは、私だから」 崖の上に風が吹く。  ゲッベルス「それで、用件は何? 私をからかいに来たわけじゃないんでしょう」  カメンスキー「ふん。特別に、私の正体を教えてやろうと思ってな」  ゲッベルス「何を今更――」 ぱんっ 仮面の下からの銃撃が、ゲッベルスの胸を貫いた。  プレハーノフ「私の名はプレハーノフ」 仮面が剥がれ、プレハーノフの素顔があらわになる。  プレハーノフ「マジカルソビエト、メンシェビキ党が党首」 倒れるゲッベルス。  プレハーノフ「貴様ら、マジカル枢軸の敵だ」 ○マジカルドイチェ、リティたち 廃墟の町。時に走り、時に立ち止まり戦うリティとノイジー。 斧を手に攻め立てるノイジー。リティは防戦一方。 リティ、受けきれずにバランスを崩す。 上段から斧を振り下ろすノイジー。 リティ、尻餅をつきながらも杖で斧を受け止める。 競り合う斧と杖。  ノイジー「負けない!」 バトルアニメでよくあるように、ノイジーの闘気で押し潰される地面。  ノイジー「アタシは、絶対に負けない!」 そこに追いついて、顔を出す邦道。  邦 道「リティ!」 苦しげに邦道を見るリティ。 リティの顔つきが変わる。 光りだすリティ。飛び退くノイジー。 追い討ちをかけるようにノイジーを襲う銃撃。ノイジー、瓦礫の陰に隠れる。 AK47を手に、佇んでいる石田。  リティ「ヒトラーを放っておけば、大変なことになる。魔界も、人間界も。あたりまえの話だよね」  ノイジー(変身したの!? 左翼の思想が届かない、マジカルドイチェで!?) 驚愕のち、にやり。  ノイジー「アディ姐さんが言ってたこと、ほんとだったんだ」 石田の正面に出てくるノイジー。 石田、銃を構える。  ノイジー「そんなこと、心配しなくても平気だよ」 不敵な笑み。  ノイジー「リティは、ここでアタシに倒される運命なんだから!」 対峙。 見守る邦道。 ○宮殿前 あちこちで、ドイツ兵とソビエト兵が戦っている。 傷だらけのヴォロー、周囲を警戒している。 背後から気配。振り返って杖を振るう。 飛んできたナイフが氷付けになる。が、それだけ。 ヴォローの背後に人影――ルーデルが突然現れる。  ヴォローシロフ「っ!」 転がってかわすが腕を切られる。 ヴォロー、立ち上がる。左腕をだらりとたらしている。  ヴォローシロフ「はぁ……っはぁ……っ!」 近くにいたドイツ兵に襲われる。が、そのドイツ兵はルーデルのナイフによって絶命させられた。  ルーデル「俺の獲物だ。邪魔するな」 ルーデル、ヴォローを見据え。  ルーデル「祈れ。次で仕留める」 虚空に消える。  ヴォローシロフ「はぁ……」 周囲を警戒するヴォロー。 と、上に影。思わず仰ぎ見るヴォロー。 そこにあったのは、先程ルーデルが殺したドイツ兵の腕。 突き立つ刃。 わき腹を刺されたヴォロー。 血を吐く。  ルーデル「――貴様」 ナイフを握ったルーデルの腕、半ばまで凍っている。 口の端から血をたらし、笑うヴォロー。  ヴォローシロフ「僕をなめるな」  ルーデル「くおぉっ!」 ルーデル、全身氷付けとなり砕ける。  ヴォローシロフ「はぁ……はぁ……」 杖にもたれかかるヴォロー。 そこに、拍手の音が響く。  コイズミ「さすがですわ、ヴォローシロフさん」 顔を上げるヴォロー。  コイズミ「ルーデルなら、もう少し粘れると思ったのですけれど」 歩みでてくるコイズミ。 ヴォロー、杖を構え。  ヴォローシロフ「次は、お前か」  コイズミ「まぁ、勘違いなさらないで下さい。私、争いに来たわけではありませんの。実は一つ、お尋ねしたいことがありまして」  ヴォローシロフ「……何を言ってる」  コイズミ「――ボストークの所在について。ご存知であれば、お教えくださいませんか?」 ヴォローシロフ、目付きが鋭くなる。 ○マジカルソビエト地下、天秤の間 天秤を見上げるスターリン。 部屋にあるエレベーターは二つ。そのうち一つが、地下深くから上ってくる。 エレベーター、到着。 スターリン、振り返り様にエレベーターの扉に向けて銃を乱射。 更に手榴弾を投げる。爆発。 爆炎の中から歩みでてくるヒトラー。  スターリン「……枢軸側の入り口は、六十年前に封印したはずだが」  ヒトラー「力を取り戻した今ならば、大した封印ではない」 ワルサーP38を引き抜くヒトラー。  ヒトラー「道を塞ぐな、紅いツァーリ。邪魔をするなら、お前も侵略する」  スターリン「私に勝てるとでも思っているのか、独裁者」 銃を構えるスターリン。  スターリン「邪魔は貴様だ。我が望みのための礎となるがいい」  ヒトラー「…………」 ヒトラー、目を哀れみにも見た眼差し。  ヒトラー「お前の望みは叶わない。――サイレント魔女は、ノイジーが始末する」 ○マジカルドイチェ 廃墟を舞台に、互角の戦闘を繰り広げる石田とノイジー。 石田の銃撃を、ノイジーが斧の一振りで弾く。 斧を横に薙ぐノイジー。大きく後ろに下がる石田。 石田の背中が、古城の門にぶつかる。 大きく跳躍したノイジー。その手の中で、斧が巨大化する。  ノイジー「はああああああああっ!」 門ごと石田をぶった切ろうとするノイジー。 石田、避ける。 崩れ落ちる門を背景に、ノイジー。斧が帯電している。  ノイジー「あなたには分からない」 更に石田に斬りかかるノイジー。石田、銃身で受ける。  ノイジー「マジョリティのあなたに、マイノリティの気持ちは分からない!」 ノイジーに吹っ飛ばされる石田。古城の窓を突き破り、城内のホールへ。 ホールには、多数の廃墟の絵が飾ってある。 苦しげに立ち上がる石田。 ホールの壁に亀裂が入り、崩れる。 そこに立っていたノイジー。  ノイジー「喉を嗄らして叫ばなきゃ、アタシたちの声は届かない。じゃなきゃ、すぐに多数派の声に押し潰される」 突撃するノイジー。石田、AK47を撃つ。 飛び上がってかわすノイジー。壁にかけられた絵が穴だらけになっていく。 着地するノイジー。  ノイジー「サイレントマジョリティ。ただ多数派っていうだけで、黙ってても認められるあなたたちに――アタシの気持ちは分からない!」 再度突撃。石田構える。 銃身を斧で弾かれ、バランスを崩したところに一撃くらう。  ノイジー「だから、アタシは叫ぶの。アタシの主張が受け入れられるまで」  リティ「……多数決は、運営を円滑に進めるために必要な原理。あたりまえの話だよね」  ノイジー「――そんなこと言われたら、アタシはどうすればいいの!?」 絶叫。  ノイジー「必要だとか、仕方ないとか! そんなことで間違いにされるアタシたちが、どんな気持ちでいると思ってるの! 多数派の方が間違ってたことなんて、世の中にはたくさんあるのに!」 静かに聞いている石田。  ノイジー「あたしは負けない。マジョリティのあなたに勝って、マイノリティの正しさを証明する!」 ○マジカルドイチェ、廃墟 走って古城までやってきた邦道。崩れた門の辺りで息を整える。  邦 道「リティ……」 また走り出す邦道。 (回想・七話) ノイジー目を細める。  ノイジー「主張できなかったら、世界に押し潰されるしかないんだよ。それが、マイノリティの運命だから」  邦 道「違う……。そうじゃない。それだけじゃ、ない……!」 ○天秤の間 ワルサーP38から放たれる、巨大な光。 スターリン、光を防ぐ。やや押されながら、何とか弾く。  スターリン「なるほど。威力だけは大したものだな」 スターリン、斜に睨む。  スターリン「――だが、それだけだ。狂ってしまった思想に、最早未来はない」  ヒトラー「言われるまでもない」 ヒトラー、あくまで冷静。  ヒトラー「六十年前のあの日から、私にあるのは破滅だけだ」 ○マジカルドイチェ、古城 廃墟の絵。 絵に映りこむ影。 影が去った直後、ノイジーの斧が絵を真っ二つに切り裂く。 振り返って睨むノイジー。 真上に向かって撃つ石田。 崩れてくる天井。  ノイジー「なっ!」 天井をぶち破って城の上空へ現れる石田。 暫く待つと、同じようにしてノイジーがでてくる。  ノイジー「くらえぇっ!」 ノイジーの一撃。 石田防ぐが、衝撃で叩き落される。 落とされた先は、城の別館――ヒトラーのアトリエ。 イーゼルや多数の筆が飛ぶ。 壁には一枚、天使の絵がかけられている。 アトリエに降り立つノイジー。よれよれ。 立ち上がる石田、ぼろぼろ。  リティ「お互いに、限界。あたりまえの話だよね」  ノイジー「そうかな。そうだね。そろそろ決着、つけよっか」 向かい合う二人。 動き出す――  邦 道「待てよ!」 扉を開けて、乱入する邦道。 驚く二人。  邦 道「ノイジー……。もう、やめてくれ。戦ったって、力で勝ったって、そんなの本当の正義じゃない」  ノイジー「邦道君……?」  邦 道「民主主義っていうのは、数の暴力とは違う。広く意見を募り、すり合わせた上で多数派の意見を尊重するっていう意味だ」 近付く邦道。  邦 道「辛くなるほど叫ばなくたって、お前の声は、みんなに届いてるよ」  ノイジー「――そんなの、嘘だよ」 斧を握り締めるノイジー。  ノイジー「マイノリティの意見なんて、誰も聞いてくれない。どんなに正しいことを言っても、知ろうとさえしてくれない」  邦 道「ノイジー……」  ノイジー「だったら! だったら、無理やりでも振り向かせて見せる! アタシの力で!」 ノイジーの斧が放電。風が巻き起こる。 怯む邦道。身構える石田。  ノイジー「アタシはノイジー・マイノリティ! 雄弁の魔女にして、虐げられた少数派の代表者!」 駆け出すノイジー。  ノイジー「マジョリティには、絶対負けない!」  邦 道「やめろ!」 飛び出す邦道。石田を庇う。 ノイジー、振り下ろす斧を止めることができない。 邦道に斧が当たる寸前、世界が光に包まれる。 (回想) ○病院 心電図の音が響く。 幼い邦道と、その横に立っている父親。 小さなベッドから、たくさんの管が伸びている。  邦 道「ねえお父さん」 邦道が父親を見上げる。  邦 道「赤ちゃん、どうして泣かないの?」 ベッドというか、カプセル?  邦 道「赤ちゃんって、泣くんだよね。おぎゃあおぎゃあって泣くんだよね? どうして――」 父親、邦道の頭をなでる。 邦道、ベッドを見る。  邦 道「声、聞こえないよ……」 (回想) ○墓の前 顔を上げて立っている、幼い舞。 墓に手を合わせている邦道と父親。 誰も、舞に気付かない。 邦道の顔に手を伸ばす舞。 その手が、顔を透過する。 舞、自分の手を見る。 祈り終わり、去る邦道たち。 はっとする舞。去る家族の背中を見つめる。 なにか、叫ぶ。だが声は聞こえない。 行ってしまう家族。舞の目に涙が溢れる。 数年後。 現在のノイジーと同じくらいまで育った舞。 表情がない。 空を見上げると、雪が降っていた。 現れる人影。 ヒトラー。褐色を基調にした服。頭には包帯。 ○マジカルドイチェ、アトリエ 目をみはっている邦道。 リティ――石田でなくリティ、心配そうに覗き込んでいる。  邦 道「まさか……」 へたり込み、俯いているノイジー。  邦 道「舞、なのか? そんなことって……」  ノイジー「そうだ……」 震えるノイジー。  ノイジー「アタシの声――届かなかった」 斧をつかみ、立ち上がるノイジー。  ノイジー「泣けなかった! 笑えなかった! 呼べなかった!」 叫ぶたび、斧を振るう。部屋がぼろぼろになっていく。  ノイジー「届かなかったっ!」  邦 道「舞! やめろ!」  リティ「赤井さん!」 立ち上がる邦道を、リティが引きずり倒す。その頭上を斧の衝撃波が通り過ぎていく。 涙目で叫ぶノイジー。  ノイジー「それじゃダメなのよ! 泣き叫んで、喉が嗄れるまで泣き叫んで! 私はここにいるって教えないと!」  邦 道「舞!」 リティ、邦道に向かって力強く頷く。 呆けていた邦道、意図を察して頷き返す。リティ、邦道を残して数歩横に移動。  ノイジー「届いて! 届いてよ! アタシの声、届いてよぉっ!」 ぱん! リティの撃った弾が、振り上げたノイジーの斧を弾く。ノイジー、斧を落とす。 リティに気付いたノイジー、顔が醜く歪む。  ノイジー「マジョリティ……リティ!」 つかみかかるノイジー。壁に叩きつける。  ノイジー「どうして、あなたの声は聞こえるの!? 多数派がそんなに偉いの!? アタシの、アタシの声は届かなかったのに!」  邦 道「舞!」 ノイジーを、後ろから抱きしめる邦道。  邦 道「もう、やめてくれ」  ノイジー「アタ……シは、ノイジー。舞、なんかじゃ……っ」  邦 道「悪かった、気付いてやれなくて。ずっと、辛い思いをさせて……。本当に、悪かった……」 涙。  邦 道「もう、いいんだ。そんなに苦しんでまで、叫び続けなくていいんだ。お前のことを、忘れたことなんてない。あの日から――」  ノイジー「あの日……?」 明転。 (回想) ○邦道の家 妊娠している母親、椅子に座っている。 走ってくる幼い邦道。  邦 道「おかあさん、触ってもいい?」  母 親「どうぞ」 母親のお腹に顔と手をくっつける邦道。 と、驚いて顔を離す。  邦 道「わ、動いた!」  母 親「あら、赤ちゃんが吃驚したのかな? それとも、お兄ちゃんに何か伝えたいことがあるのかしら?」  邦 道「えっとね。早くみんなに会いたい、だって」  母 親「邦道くん、赤ちゃんが何を言いたいのか分かるの?」  邦 道「うん!」 満面の笑み。 母親微笑。  母 親「そう。私も、早く会いたいな。邦道くんも会いたいわよね」  邦 道「うん!」 再びお腹に触れる邦道。  邦 道「早くおいで。みんな、待ってるよ……」 ○マジカルドイチェ、アトリエ  邦 道「聞こえてた」 泣き崩れるノイジー、座り込む。 首を抱きしめる邦道。  邦 道「お前の声、ちゃんと届いてたよ」 泣き続けるノイジー。リティもちょっともらい泣き。 しばらく後。 おもむろに立ち上がるノイジー。  ノイジー「リティ、勝負よ!」 驚くリティ。  邦 道「舞、お前……!」  ノイジー「ノンノン、今のアタシはノイジー舞・ノリティなの。リティを行かせるわけにはいかないんだから」  邦 道「何考えてるんだ! お前を洗脳して利用するような枢軸の、味方をするってのか!」  ノイジー「……それでも、アタシのことを見つけてくれたのはアディ姐さんだから」  邦 道「……っ」  ノイジー「大丈夫! もうマジョリティだからどうなんて言わないし、腕試しをするだけだから!」  邦 道「けど……」 立ち上がるリティ。やる気の様子。  邦 道「おい!」 リティ、邦道を見る。しぶしぶ了承する邦道。  ノイジー「参ったって言ったら負けだよ。オッケー?」 頷くリティ。  ノイジー「いくよっ! レディ、スタ」 瞬間。ノイジーのこめかみが、何者かに撃ち抜かれた。 その場に、状況を理解できたものはいない。 ノイジーが倒れきる前に、半透明の球体がその身体を包んで空中に浮かび上がった。  邦 道「な……!?」 歩み出てくる男。  プレハーノフ「あっさりと変節するものだ。半端に人間が混じっているせいだろうな」 リティと邦道が彼を見る。プレハーノフ。  プレハーノフ「ハジメマシテ、と言うべきか」 プレハーノフ、リティを見る。  プレハーノフ「私に協力してもらおうか、サイレント魔女。いや」 嫌な笑み。  プレハーノフ「魔女と呼ぶのも汚らわしい。捏造されたマジョリティよ」 続く