○マジカルソビエト(東部辺境)        一面に広がる荒野。そして荒れたてた畑。画面を横 切るように数枚の枯葉が飛ぶ。その向こうに場違いなほどの巨大な銅像。銅像の男は人民服の上からコートを着て右手を高く掲げている。 後方にあるのはやはり場違いなほどの立派な建物。 画面変わり宮殿のような立派な室内。黒髪の女性が正面の巨大なモニターに向き合っている。女性の顔は見えない。 画面に映るのは眼鏡をかけた初老の男。  男  「――石平市における右翼勢力の排除および、左翼勢力の保護は順調に進んでおります。先月には、われわれの拠点である六つ目の『ソォレン』支部が完成いたしまして、既に厳選した『闘士』の送り込みが完了しております。」 モニターの画面が石平市周辺地図に変わる。  男  「石平市、および近隣市町村におけるマスコミにも、広告費の名目で大量の金をばら撒いておりますので、しばらくはこの地区の言論組織は我々の味方です。…将軍様」 満足そうに微笑む口元。  キ ム「ここまでは予定通りといったところね。でも本番はこれから――専守防衛はこれまでにして、そろそろ反転攻勢といきましょう。スターリンの命令にしがみついてこんなちっぽけな街一つを護ってるなんて、半万年の歴史を誇るあたしたちには相応しくないもの、ね。」        女性の指がコンソールに伸びる。地図上の石平市に六つの交点が現れ、やがてそれは光線で結ばれ六芒星になり、魔方陣が浮かび上がる。        石平市郊外、魔方陣の中心に浮かび上がるのは        Nezumy-Landの文字。  キ ム「少し早いけど、あの計画を実行に移しましょう。準備はよろしくて?」 モニターには再び初老の男。  男  「仰せのとおりに。…ところで将軍様には一つ悪い報せがあるのですが…。」        キムの後姿が一瞬ピクリと震える。  キ ム「遠慮することはないのよ。何でも言って頂戴。私と貴方の仲でしょ?…ファン」        画面の男、額を拭きながら。  ファン「人間界で得た魔力エネルギーの一部を、極秘にわが東方辺境領に送っておりましたマジカルマカオの中継基地が、枢軸側のブッシュ将軍に察知されまして…先日壊滅させられました…」        キムの震えが徐々に激しくなる。  キ ム「哀号!、またあの帝国主義の犬が性懲りもなくウリの邪魔を!いつかあの小娘を煮てて食ってや…りた…いニダ…」        顔を隠して呻きだすキム。  キ ム「ハアハア…見つかってしまったものは仕方ないわ。ファン!この件に関しては今後私への報告は無用です。全て貴方の責任で処理しなさい。くれぐれもスターリン同志に察知されないことね。シベリアの生活は咸鏡道の冬よりも厳しくてよ。」  ファン「将軍様、しかし…」  キ ム「この国の諺を忘れたの?『沈黙はキム、雄弁は…』」        ファン、ビクっとして。        敬礼。  ファン「はっ!偉大なる将軍様と指導者スターリン同志万歳!」 画面が消え、モニターが肖像画に変わる。そこに映るのは先刻の銅像の顔。 ○石平市内『ソォレン』本部一室 画面が消え、こちらのモニターも肖像画に変わる。 渋い顔をして肖像画を見つめるファン。  ファン「私の責任で、ですか…。ブッシュに察知できたものをあのスターリン同志が気づかないとでも?今回の計画の前倒しにしろ、将軍様もあれでだいぶ焦っておられるようだ…」       懐から携帯電話を取り出す。  ファン「そろそろあの人も見切り時かな。」        携帯のボタンを押して。  ファン「ああ、のむちゃん?ウリニダ。そうそう、ファンニダよ。先日話した亡命の件でブッシュ大統領に口利いてほしいニダ。…無論手土産は用意してるニダ。ケンチャナヨ!」 ○マジカルドイチェ  黒い森に覆われた古城が映し出される。 画面が変わって古城の一室。部屋一面に廃墟の絵が飾ってある。部屋の隅には書きかけの天使の絵。 窓際のベットには一人の少女が眠っている。傍らの椅子に腰掛けているのは、目に包帯を巻いた女性。  少 女「う……」 少女が目覚める。 ぼんやりとした天井の画面。徐々にはっきりしだし、自分を見つめる青い瞳に気づく。  女 性「気づいたようね。」  少 女「え…あ、頭が…すごく…痛い。」        少女は半身を起こすがすぐに頭をかかえてしまう。        女性は優しくベットに横にさせながら。  女 性「ひどい事故でね。貴方はずっと眠ってたの。…まだ無理しないほうがいいわ」  少 女「事故?」  女 性「残念ながら貴女のご両親は亡くなられたけど、貴女は奇跡的に助かったの」 親子三人の温かいぼんやりとしたイメージ。 だが両親の顔は全くわからない。  少 女「パパ…?ママ…?何も思い出ない…私の名前も…」 俯く少女の肩をそっと抱き寄せる。  女 性「辛いことは無理に思い出さなくていい。でも、これだけは思い出して。貴女の名前はノイジー。ノイジー舞・ノリティ。『雄弁の魔女』よ」 ノイジーはツインテールでなく髪を下ろしてる。  ノイジー「私は…ノイジー。…雄弁の魔女?」  女 性「そう、大衆と呼ばれる多数派は、常に自分の利害や周りの環境に移ろいやすくあてにならないもの。そして、真理は常に選ばれた者と共にある。ならば誤った世を正すのは選ばれた少数派のさだめ。」        ノイジーの目をじっと見つめる女性。        見つめられ、とろんとなるノイジー  女 性「そんな選ばれた少数派の正しき真理を代弁して戦うのが、『雄弁の魔女』――貴女の使命なの。」  ノイジー「…………」        何かを言おうとするが、混乱して言葉が出ない。  女 性「沈黙しては駄目よ、ノイジー。沈黙は何も生まない。虐げられた時、自分の利益が不当に貶められたとき声を上げぬものには誰も手を貸してはくれないわ。雄弁であること。それが選ばれた民の権利。そして義務」  ノイジー「…………」  女 性「言い忘れたわ。私の名はアドルフ・ヒトラー。貴女のあたらしい家族よ。『アディー』と呼んで頂戴」        ヒトラー、ノイジーを優しく抱き寄せる。  ノイジー「…アディー…、アディ姐さん……」       抱き寄せられながらつぶやくノイジー。       ヒトラーに一種凄みのある笑いが浮かぶが、       ノイジーは気づかない。 ○マジカルドイチェ(執務室)        ヒトラーが執務室の扉を開けると拍手の音が。        先客が一人立っている。  先 客「いや、見事な演技でした。総統閣下。」        ヒトラーの顔に一瞬暗い翳が過ぎるが        すぐ冷厳な顔つきに戻り。  ヒトラー「貴女の洗脳技術こそ見事ね。ヒムラー宣伝相」        ヒムラー恭しく敬礼して。  ヒムラー「すべて本人の意思だと思わせて操ってこそ大衆ですからね。マジカルソビエトのスターリンの恐怖政治のような下劣な政治手段など、我々優良民族のとるような技術ではございませんよ。」        ヒトラー、執務室の椅子に優雅に座りながら。  ヒトラー「それで、同盟のブッシュ将軍からの書簡が届いたそうだけど?」        ヒムラーが手のひらを差し出すと、宙空に書類が現        れる。それを出しだすヒムラー  ヒトラー「ふうん。マジカルソビエトからの亡命者ねえ。…裏切者の言うことなんて信じられるのかしら?」        片肘をついて右手を頬に置いたお行儀の悪い格好で、        それでもヒムラーに鋭い視線を送りながら。  ヒムラー「ゲシュタポ(秘密警察)がマジカルソビエトに送り込んだスパイからも同じ様な報告が上がっておりまして、彼らの次の目標は間違いないかと。」        書類を放り出して  ヒトラー「わかったわ。あの子のエージェントとしての実力を図るいい機会ね。…それでノイジーはどれくらいで仕事に出られるのかしら?」  ヒムラー「訓練課程は洗脳による記憶消去と同時に行いました。まだ無意識下に洗脳前のノイズが残っているようですが、一週間もすれば安定するかと。」  ヒトラー「それじゃあ、ノイジーが動けるようになったらこう伝えておいてくれるかしら?『いきなりこんなこと頼んじゃってアディが申し訳ないって言ってた』って。…雄弁の魔女の実力を見せてもらいましょう。」       ヒムラー敬礼して執務室を出ようとしてふと気づい       て振り向く。  ヒムラー「ところで総統閣下は一体どこから雄弁の魔女の話を?」  ヒトラー「裏切り者は別にキムのところからとは限らないということよ。」        ヒトラー薄く笑う。ヒムラー合点のいかない顔。 ○マジカルソビエト(モスコー)        ボロ家のようなノイジーメンシェビキ党本部。  党 員「どうしたんですか、党首。いきなりくしゃみなんかして」        プレハーノフ、鼻の下をすすりながら。  プレハーノフ「風邪かな…? ロシアの冬は、厳しく長い…」 ○マジカルソビエト(東部辺境) 例の一室。今度はキムと一人の少女がいる。 キムが振り向く。意外にも美人(韓流女優をイメージしてください。誰かといわれると僕も詳しくは知りませんがw)、ただし眼鏡をかけている。 少女のほうはボサボサ頭にグリグリ眼鏡、そばかすに小太りといった感じ。フリフリのついたピンクの服を着てキ●ィちゃんや、ミッ●ィーちゃんのなどのアクセサリーを身につけている。  キ ム「いま説明したとおりよ。石平市にあるネズミーランドを『将軍様テーマパークに』改造して、入場者にウリ達の主体思想の素晴らしさを認知させて左翼思想に洗脳するの。ネズミーランドを囲む六つのソォレンから成る磁場が、洗脳の効率を上げてくれるわ。名づけて『ネズミーランド赤化計画』!…なにか質問はある?正子」        目をキラキラ輝かせる正子。  正 子「オモニ、素晴らしい計画ニダ!ウリは昔から一度でいいからネズミーランドに行き…じゃなかったあの国を主体思想で染め上げて見たかったニダ」  キ ム「とにかく、この計画を成功させることが貴女が私の後継者になるのに必要なことと心得なさい。年間2500万人といわれる、ネズミーランド来場者を転向させれば、右傾化する日本の思想バランスを一気に逆転することも可能ニ…よ。ウッェーハッハッハ!」        突然、キムの頬にエラが生える。  正 子「…オモニ、あまり興奮しすぎるとまた整形が解けるニダよ…。とりあえず計画完了まで一週間待って欲しいニダ。あ、あくまで下見やら、準備やらにかかる時間で、決して一週間遊び倒すわけじゃないから安心して欲しいニダ!」        キムの訝しげな視線を受け。  正 子「ウリは母にして偉大なる指導者であるキム同志のために一命を投げ打つ所存ニダ!将軍様マンセー!」        正子がステッキを振るう        「万景峰号」と書かれた箒が現れ、またがる正子        壁に時空の穴が開き重そうに箒が飛び込む。        ふさがった穴を眺めながらキム。  キ ム「これであの忌々しいチビ娘の干渉から逃れられる…。ウリが何時までも貴女の風下に立っていると思ったら大間違いニ…よ。スターリン☆」 ○ネズミーランド        楽しそうに行き交う人々。 アトラクションから出てくる高校生らしき集団。 男三人、女三人といったとりあわせ。 一人の少女が、一人の少年の腕を強引に引っ張っている。  朝 日「さあ、次は『カリブの海賊』よ!ほらっ、邦道、しっかりしなさいよ。だらしないわね。」  邦 道「ちょ、ちょっと待った…俺、乗り物酔いしちゃって…あのアトラクションものすごく揺れるもんだからさ…後生だからちょっと休ませてくれ。」  朝 日「もうっ!せっかくあんたの合格祝いだからって、こうやって新聞部のみんながつきあってあげてるのに、あんたが最初にへばっちゃ意味ないじゃない。」  邦 道「つきあってあげて…ってなあ。元はといえこの旅行自体、朝日お前が…」  朝 日「な、なによっ。新聞部も引退して、大学合格したのに何もやること無くてブラブラしてるあんたが可哀想に思って、お情けで企画してあげたこの私の好意を無駄にする気?」        たまらず一人が割って入る。  圭  「もうっ!朝日ったら。あなたが言うとおり今日は邦道先輩が主役なんだから、邦道先輩の気持ちを尊重してあげなきゃだめじゃない。それなのにさっきから朝日が一番はしゃいじゃって。」  朝 日「そ、そんなことないわよ――」       さすがに赤くなる朝日。       京子がくすくす笑い出す。  京 子「赤井先輩も、築地先輩もいつもと変わらないですね。でも一応これは新聞部の部活動も兼ねているんですから、ちゃんと取材もしないと。」  瓜 雄「俺は東京ドームでの巨人戦観戦を提案したんだけどなぁ。タカハシに取材したかった…」  圭  「あんた一人でやってなさい!もうっ、どうしてうちの部はみんな自己主張ばかり激しくてまとまりが無いのかしら。ちょっとは邦道先輩の協調性を見習って――」  邦 道「ははは…」        頭を抱える圭。        その時、突如中日の「キター」という叫び声。  中 日「ドラゴンズ八回表に逆転ツーラン飛び出した。」  瓜 雄「な、なんだと!バカな…」        ひったくるように中日のワンセグを取り上げる瓜雄。        身体が震えている。  中 日「やはり、ジャイアンツの弱点である中継の不安が出ましたね。ドラゴンズは抑えを出してくるだろうしこれは逃げ切りかな?」  瓜 雄「まだ八回九回の攻撃が…」  中 日「正直ジャイアンツの寄せ集めの打線なんて『アジアの至宝』李以外は怖くないし。悪いねぇ瓜雄、今日のアトラクション代おごってもらうことになっちゃって。」  瓜 雄「まだだ!まだ終わらんよ!」        兄と瓜雄の二人の先輩をあきれた顔でみつめながら。  京 子「…次号の学内新聞の一面が決まりました。『新聞部員二名、学生の身でありながら野球賭博に関与!』。」  邦 道「をいをい…」 ○ネズミーランド2        朝日と京子がワイワイ楽しそうにお土産を選んでる。 瓜雄と中日はワンセグの野球中継とにらめっこ。 邦道は売り場からちょっと離れたベンチにぐったり腰掛けている。  圭  「あの…邦道先輩。隣いいですか?」  邦 道「え、ああ」        意味もなくベンチをはたく邦道。 ベンチの端による。 手に持ったドリンクを渡しながら腰掛ける圭。  圭  「邦道先輩が卒業したら寂しくなりますね。」  邦 道「そうかな?」        圭、ちょっと空を見つめながら。  圭  「私だけじゃなくて、京子も瓜雄も中日も、そしてあんなふうにしてるけど、朝日が一番寂しがってると思いますよ。」        腕組みをして首を傾げる邦道。  邦 道「そうかなあ。だって大学受かったといっても俺の場合付属大学だろ。敷地すぐ隣だし、新聞部に顔出そうと思えばいつでもこられる距離にあるわけだし。新聞配達のアルバイトだって続くわけだから、朝日と毎日顔合わすのは変わらないし、だいいち家隣だし、あいつとの腐れ縁もなにも変わるとは思えないんだよなぁ。うん、何も変わらない!」  圭  「………」  邦 道「もし変わるとしたら、隕石が俺に向かって落ちてくるとか、PCが突如大爆発起こすとか、そんなとほうもつかないな事故が起きれば別かな…」  圭  「先輩?」 邦 道「あ、へんな事いっちゃったかな。でも、あるんだよ。思いもかけない事故で、いままで当たり前だと思ってたことが当たり前じゃなくなっちゃうことが。だから、思うんだ。こんな毎日が変わらず続くのはすごく幸せなことなんだって…」        意外な顔で邦道の横顔を眺める圭。        ドリンクに視線を落として。  圭  「こんな平和な日がずっと続くといいですね。」  邦 道「うん、ずっと続いてほしい。」        二人でなんとなく流れる雲を眺める。        既に日は西に傾いている。        二人の座るベンチの後ろの茂みが映し出される。        杖を抱いてツインテールの少女が眠っている。  ノイジー「うーん、もう食べられないよ…アディ。」 ○ネズミーランド3        既に日は暮れている。 夕闇の中、お城の前に集まる入場客。 手に持ちきれないほどのお土産袋を持たされている邦道と中日。瓜雄はその後ろで真っ白に燃え尽きている。  京 子「あとはパレードだけなんて名残惜しいです。」  圭  「あ、二人ともパレード見るのはじめてだっけ?すごく綺麗で感動的なんだから。」  朝 日「へー、楽しみね。」        やがてきらびやかに電飾で飾り立てたパレードの        一団が近づいてくる。どよめく観客。        先頭のパレード車が朝日たちの前にやってくる。        「喜び組」と電飾されたパレード車には半裸の男性        ダンサーが乗ってラインダンスを踊っている。        その後ろに続くのは背広姿の闘士・列女の行進。        一糸乱れぬ見事な行進だが、その表情に個性はない  朝 日「…圭、ネズミーランド名物の電飾パレードってこれ?」  圭  「あ、あれ?おかしいな、何時の間に内容変わったのかな。」        目を丸くしてパレードを見送る朝日達        シンデレラ城の上には正子が立っている。        ネズミの耳をかたどった帽子をかぶり、アヒルのマ        スコットの書かれたポシェットを持っている。        足元には「AKIBA」と書かれた紙袋。  正 子「わが闘士たちの鍛え上げた肉体のスーツ姿に、入場客も声もないみたいニダね。でも本番はこれからニダよ」        やがてシンデレラ城前でマス・ゲームが行われる。        浮かび上がるのは「赤化統一」「主体思想」「将軍様        万歳」などの文字。  朝 日「…へぇ、見事ねぇ。人間あれだけ揃った動きができるものなのね。」  圭  「うん、でもなんか個性がない感じだな。プロダンサーならもうちょっと楽しそうな顔をしてやってもいいのに。」  京 子「築地先輩、藤山せんぱぁぃ…あたしなんだか眼が回ってきまひたあぁぁぁ…」        デジカメで写真を撮っていた京子が突然倒れる。        慌てて抱き起こす朝日。  朝 日「ちょ、ちょっと京子!どうしちゃったの!?しっかりしなさい」  圭  「宣誓!この藤山圭はちゅ、主体思想にのっとり、正々堂々と祖国の石化統一に取り組むことを偉大なる指導者同志に誓いまふ!!………」  朝 日「ちょ、ちょっと圭!?何あなたらしくないことを口走ってるの!?いったいあなたまでどうしちゃったの?」        圭につめよった朝日だが、ふらふらと倒れてしまう。        男性陣はとっくの昔に意識を失っている。        ほくそえむ正子。シンデレラ城から飛び降りる。  正 子「あのマスゲームにはサブリミナル効果が仕掛けられていて、見ていると主体思想に洗脳されてしまうニダね。が、ちょっと刺激が強すぎたみたいニダね。…小一時間ほど寝ててもらうニダ。…ん?」  警 官「マジカルソビエトの金正子さんですね。本官にご同行願いますか?」        何時の間に正子の周りを三人の警官が囲んでいる。        正子の手をつかむ警官の目は狂信者の緑色の目。  正 子「これは…まさか、ネトウヨ!?」   ノイジー「ご名答!」        頭上から声がして、正子が驚いて見上げると、ノイ        ジーがアトラクションの屋根の上に座っている。        欠伸をして。  ノイジー「もう、いつまで経っても現れないから待ちくたびれて寝ちゃったよ。隙だらけだったから後ろから黙ってバッサリてのも可能だったけど、それはあたしの趣味じゃないからね。ギャラリーが全員倒れちゃった後なのが残念だけど。」  正 子「な、何者ニダ?」。        大儀そうに立ち上がるノイジー。  ノイジー「大衆は移ろいやすいもの。ならば、間違った世を正すのは、選ばれた少数派の定め――」        ひらりとアトラクションの屋根から飛び降りる。        後ろにSSの制服を着たネトウヨ達を従えている。  ノイジー「アタシの名はノイジー!マジカル枢軸のエージェントさ、あんた達の野望を邪魔するのが仕事ってわけ。」        たちまち手に持った杖が斧に変わる。  ノイジー「脱税・誘拐・通貨偽造に核兵器開発の悪行三昧。自分のしたこと棚に上げ、謝罪と保障を繰り返す。」        斧を敵に向けて決めポーズ  ノイジー「良識に囚われた多数派の代わりに、雄弁の魔女が独善で決定させて頂きます。はた迷惑な民族は浄化したほうがいい。あたりまえとはいえないけど、至極もっともな話だよね!」        斧の先が一瞬輝く。  正 子「…雄弁だか、郵便だか何だか知らないニダが、ウリの邪魔はさせないニダ!」。        正子の身体から光の波濤がほとばしり三人の警官を。        なぎ倒す。地面に吸い込まれるように消える        ネトウヨ。光の波濤はさらにノイジーを襲うが、        ノイジー、ひらりとかわす。  正 子「やっておしまい…ニダ!」  ノイジー「やっちゃえ、ネトウヨ!」  闘 士「ウリナラマンセー!」  ネトウヨ「ハイル・ヒトラー!」        ネトウヨ×闘士の戦いが一斉にはじまる。        闘士にテコンドーキックをくらい吹っ飛び消滅するネトウヨ。その闘士も別のネトウヨに殴られ消滅。  ノイジー「あなたの相手はアタシだよ!」  正 子「しゃらくさいニダ!出でよ!トンチャ●ン!」        中空に開いた穴からまるくって背の低いオレンジ色        の猫のような生き物が現れる。  ノイジー「ネズミーランドらしく、キャラクター物を出してきたね。でもこういったものはマジカル枢軸が本場なんだよね。」       ノイジーの足元か青色をしたネコ型ロボットがせり上       がるように現れる。ボケットから懐中電灯のようなも       のを取り出す。そのライトの光を浴び、オレンジ色の       ネコはたちまち小さくなって消滅。  ノイジー「バチもんは本物に決して勝てない!あたりまえの話かな?」  女の声「それ、ほんとうかしら?」        突如、シンデレラ城前広場に竜巻が舞い上がる。        次々となぎ倒されて消滅していくいくネトウヨ達。        何時の間に正子の隣にキムが立っている。  正 子「オモニ!」  キ ム「こんなことだろうと思って監視しておいて良かったわ。」        シンデレラ城前の広場の竜巻がやむ、中央にテコンドーの道着を着たキャラが立っている。  テコンドー「スピニング・テコンドー・キック!」        テコンドーキャラ、逆立ちして両足を広げると回転        そのまま回転しながらノイジーの方向へ飛んで来る。        (パクリ技だって?アイゴー失礼な!ウリナラ発祥        テコンドーを元にしたれっきとしたオリジナル技ニ        ダ。謝罪と賠償を…)  ノイジー「俺ガイル!」        ノイジーを庇うように現れた俺ガイルが、飛んでく        るテコンドーをサマーソルトキックで迎撃。瞬殺。        ノイジー、慌てる二人を見てニヤリと笑い。  ノイジー「あれあれー?ひょっとして親子ともども切り札出し尽くしちゃったかな?」        目に見えて動揺するキムと正子。  正 子「オモニ!どど、どうするニダ。」  キ ム「落ち着きなさい正子、よく聞くのよ。昔、私の母上である偉大なる首領様がこうおっしゃたわ。親が危機に陥ったら子が進んで身代わりになりなさいと。年長者を敬うのがウリたちの伝統と格式…」  正 子「アイゴー!オモニこそ自分がやられてる間に子を逃がすくらいのことをするニダ。」        なにやら口論を始める二人を、ノイジーは頭の後ろで腕を組んで待っている。  ノイジー「ねえ、そろそろ覚悟は決まった?アタシ、あんまりおとなしく待ってるのって好きじゃないんだけどー?」        斧を構えるノイジー。        斧の先に光点が生まれ徐々に大きくなる。  ノイジー「もうちょっと、遊んであげてもよかったんだけど。アディが夕食用意して待ってるからね。」        既に光は斧の先を隠すほど大きくなっている  ノイジー「――良識に囚われた多数派の代わりに、雄弁の魔女が独善で決定させて頂きます。はた迷惑な民族は浄化したほうがいい。あたりまえとはいえないけど、もっともな話だよね!」  キ ム「…それじゃあね。アンニョン、正子」        時空の穴が開き、そこへ消えるキム。  正 子「ちょっ、待つニダ」        ノイジーの斧の先から飛び出した七色の光が正子を        包む。正子、光に飲み込まれ、消滅していきながら。  正 子「…半万年もの間、虐げられてきたウリたちの恨の力を甘く見ないことニダ。たとえウリが消えても『恨(ハン)』は残る。恨の力が残る限りきっと、後に続く者が魔法世界のすべてを征服し、ウリたちの恨と悲しみを拭い去ってくれるニダ。いまは負けても最後に勝つのはウリたちニダ…ウェーハッハッハッハ――」        正子消滅。        カランと地面に落ちるネズミの耳の帽子。  ノイジー「浄化・完了!」        ノイジー、斧を構えて決めポーズ。        その後ろでネトウヨ達が整列して敬礼している。  ネトウヨ「ハイル・ヒトラー!ハイル・ノイジー!ハイル・マジカル・アクシズ(枢軸)!!」        地面に落ちているのは正子が被っていた帽子。  ノイジー「…親のほうは逃がしちゃったけど、アディも喜んでくれるよね…」        ノイジー、そのネズミの耳の帽子を拾い上げながら。  ノイジー「虐げられた者の恨み、か。そういえばアディもそんなこと言ってたっけ…でもアタシは戦わなきゃいけないんだ。雄弁の魔女として」        ノイジー、顔を上げて。  ノイジー「さあ、帰らなきゃ。アディに話したいことがいっぱいいっぱいあるんだから!」 ○マジカルドイチェ(古城)        古城の一室のアトリエ。        無数の絵に囲まれたヒトラーがチェスをしている。        チェスのコマは通常と違い「赤と黒」。        ひとりごつヒトラー。   ヒトラー「拾ってきたあの子が、雄弁の魔女だったとはね…」        ヒトラーが黒のコマを動かすと赤の駒が自動に進む。  ヒトラー「初陣としては良くやったほうかしら…。」        ヒトラーが黒のナイトを動かす。進んだ先にあった        赤のビショップが倒れ消滅。  ヒトラー「石平市が陥ちれば、もはやあの国の右傾化を止めるのは不可能。魔界のバランスは一気にこちら側に傾くわ」        黒の駒を一つつかんで動かすヒトラー。        黒のクイーンは盤上を斜めに滑り、赤のキングの        横のクイーンにぶつかる。倒れる赤のクイーン。  ヒトラー「チェック・メイトといったところかしら。こうしてる間にも、日本の右傾化は進んでゆく。いずれ私のこの包帯も取れる日も来るでしょう…」        消滅するすべての赤い駒。  ヒトラー「そのときはまた私の闘争が始まるわ。六十年前は不覚をとったけど、こんどはそうはいかなくてよ。スターリン。」        ヒトラーの視線の先には書きかけの天使の絵。 ○マジカルソビエト(クレムリン)        クレムリン宮殿(のような場所)。        円卓が置かれている。        そこに座るのは三名の人物。        少年の姿をしたヴォローシロフが報告している。  ヴォローシロフ「というわけで、先日石平市における拠点である最後の『ソォレン』がマジカル枢軸のエージェントによって壊滅させられました。ディズニーランドの失敗以後、キムは精彩を欠くばかりで。」  フルシチョフ「醜態ですな。まったく。」        おさげ紙の幼女、ロシアンティーを飲みながら。  スターリン「キムにしてはよくやったほうだと思うけど、この辺が限界みたいね。キムの人間界対策委員を解任しなさい。極東に流刑ね。」  ヴォローシロフ「書記長。お言葉ですが、キムを野放しにしておくとろくなことをしでかしません。あのような類の人材は我々の傍で監視させておくべきかと」       幼女、円卓の上のピロシキに手を伸ばす。  スターリン「マオに監督させるわ。喧嘩別れはしたけど、あの娘はあれで面倒見のいい女よ。引き受けるでしょう。」  ヴォローシロフ「はっ。ところで後任は誰に。新たに現れた枢軸のエージェントはかなりの実力の持ち主と推測されます。比肩しうるエージェントとなると限られておりますし、かといって数人のエージェントを石平戦線に回せば、他の戦線のバランスが崩れてしまいます。」        スターリン、ピロシキを頬張りながら。  スターリン「心配いらない。人間界対策委員は私の直轄とします。エージェントも私の直属から送り込む。」        スターリンが指を鳴らすと、円卓の上に書類が現れ        る。ヴォローシロフ、その書類に目を通して。  ヴォローシロフ「まさか沈黙の魔女を!?いけません、書記長!あの者は魔法学院の成績もいまいちですし、エージェントとしての思想教育もまだ…。」        ピロシキに手を伸ばすフルシチョフ。        その手をはたくスターリン。  ヴォローシロフ「第一、石平市は我がマジカルソビエトにとって最重要防衛地点!それをあのような小娘にまかせるなど。」        スターリン、ニ個目のピロシキを食べながら。  スターリン「ヴォローシロフ。あなたの忠誠心には感服するけどね。…フルシチョフ。あんたの意見は」        フルシチョフ突然名前を呼ばれ一瞬びくっとする。        手をさすりながら。  フルシチョフ「私が閣下の深遠なるお考えに異をはさむわけないじゃないですか。…ただ、沈黙の魔女の使用に関して文句を言う方もいるんじゃないかと、…例えば某党の党首の方とか。」        フルシチョフ、微妙にスターリンから目を逸らす。  スターリン「あんな少数派の苦情など、意に介す必要は無い」        何故か壁のむこうからくしゃみの音。  スターリン「とにかく、私が決めたことよ。ヴォローシロフ。」       ヴォローシロフ、観念したように。  ヴォローシロフ「わかりました、書記長。しかし、エージェントとしての最低限の教育を行う必要がありますので、数ヶ月の猶予を頂きたいのですが。」  スターリン「いいでしょう。私は気は長いほうじゃないから急いでね。それと――」   フルシチョフの方を睨むスターリン。  スターリン「このお茶っ葉、グルジア産じゃないじゃない!粛清!」        フルシチョフの後ろに控えていた給仕が地面に開い        た穴に落ちていく。 ○高校の卒業式会場         校門の看板には「卒業式」の文字。         半開きの桜の花。         体育館の外には「新聞部」の腕章をした制服姿の         五名の男女。  朝 日「でも、おかしな話しよねぇ。あの後のネズミーランドの出来事を誰も覚えてないなんて。」  京 子「デジカメの写真も途中から何も映ってないんですよ。真っ黒で」  瓜 雄「電池切れてたんじゃないのか?」  京 子「でもちゃんと、私撮ったの確認したんですよ。」  中 日「大方どこかミスしたんだろ。今日は失敗しないよう頼むぜ。」  京 子「ひどーい。兄さんまで」  朝 日「あっ、卒業生が出てきたわよ。…もうっ、あいかわらず邦道は間抜けな顔して…」         カメラや取材危機を持って走り出す四名。         物思いにふけっていた圭が一瞬遅れる。 (回想シーン)        ネズミーランドのベンチで。  圭  「…ところで、邦道先輩は大学で何を学んでいかれるおつもりですか?」        邦道、空を見つめながら。  邦 道「うーん、実はまだ全然わからないんだけど、多くの人々の声なき声を代弁していけるような、そんなことができたらいいなと思ってる…」 ○ラスト        体育館の屋根にノイジーが座っている。  ノイジー「はぁー。最近、マジカルソビエトの連中が全然出てこないんで退屈で仕方ないよー。」        ため息  ノイジー「張り切りすぎちゃったかな。こんなことなちょっとは残しておけばよかった。」        だるそうに立ち上がりながら  ノイジー「アディーからブッシュやコイズミの作戦を手伝えって言われてるけど、これだけ何もないと身体が鈍って仕方ないよ。」 空へ飛び上がる。  ノイジー「はやく張り合いのある相手が現れるといいな…」        蒼天へ消えてゆくノイジー。       サイレント魔女☆リティ外伝 Noisy 完