リティの台詞は『』は立て札。音声なし。 ()は心の声。音声あり。 ○執務室 驚いた顔のリティ。手に持っている立て札には、『時空のゆがみ?』の文字。 壁に掛かったスターリンの肖像画。 スターリン「そうだ。先日、東の森で観測された」 リティ『はぁ』 スターリン「マジカル枢軸が、何かしてきた可能性もある。そこで、お前に調査して欲しい」 リティ『私→がですか!?』 スターリン「不満か?」 リティ『もしかしたら』『戦いになるかも……?』 スターリン「あくまで可能性だ。やつらがこっちの世界に直接手を出してくるとは考え難い」 リティ『それ、ほんとなのかなあ』 スターリンの顔のアップ。肖像画の目の部分に穴があき、その奥から幼女の瞳が覗いている。流し目で。 スターリン「嫌だと言うなら、粛清――」 リティ『行きます』 うな垂れるリティ。 ○森の遠景 テロップ「マジカルソビエト・東の森『ラブリーツングースカ』」 ○森の中 気が進まなそうに、機械を手に持って歩くリティ。 リティ(どうして私が……) 探知機というか、どう見てもガイガー・カウンター。 リティ(ふー) 嘆息。 すると、機械が激しく反応を始める。 慌てるリティ。そこに突風が吹く。帽子を押さえて前を見るリティ。 声  「う〜〜〜〜〜う〜〜〜〜〜〜」 唸り声か、空間がひずむ音か。 上空の一点が光を発している。光と風はどんどん強くなっていき、やがて大爆発が起こる。 世界が真っ白に覆い尽くされる。 沈黙。 荒野。 尻餅を付いて、痛そうなリティ。ふと、上空に視線をやる。 空から不思議生物――サイレンが、ゆっくりと降ってくる。両手足をじたばたとさせながら。 糸が切れたように、途中からぼたっと落っこちてくるサイレン。ぴくりとも動かない。 それを目を丸くして見つめるリティ。 暫くその状態が続いて……。 サイレンが起き上がった。びくっとなるリティ。 サイレンが、リティを見る。 リティ驚き顔。 リティ『か』(か) 首を傾げるサイレン。 リティ、ポーズを変えて驚き顔。 リティ『かっ』(かっ) 首を反対に傾げるサイレン。 リティの顔アップ。とろけるような顔で。 リティ『可愛いっ!』(かっわいい〜〜〜っ) サイレンに抱きつくリティ。背景で『お持ち帰りぃ』 リティ(かわいいかわいいかわいいのぉ!) サイレン「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」 もがき苦しむサイレン。何とか引き剥がそうとするが離れない。 サイレン「ぅううっ!」 劇画調で、サイレンのアッパーカットが決まる。 逃げ出すサイレン。倒れているリティ。 顎に×印絆創膏をつけたリティ、起き上がる。 リティ(逃がさないんだからぁ!) ○森の中 紙芝居風に、捕獲作戦その一。食べ物で釣る。 籠を逆さまにしてつっかえ棒で支え、その下に果物を置いた典型的な罠。 物陰で見張るリティ。何故かサングラスが光る。 サイレン「うぅ?」 現れたサイレン、警戒しながらも果物に近付く。 サイレン「う〜〜〜」 緊張の一瞬。 見事、罠に掛けることに成功する。 リティ『大成功』(やったぁあ!) リティ、うきうきと体をくねらせて。 リティ(これでずっと一緒にいられるよぉ。毎朝毎晩毎昼毎夕抱きしめて頬擦りして一緒に寝て一緒にご飯食べて一緒にお風呂入ってそれから、それから……) サイレン、普通に籠を持ち上げて出て行く。気付かないリティ。 ○森の中 紙芝居風に、捕獲作戦その二。まずは形から。 森の中を歩いているサイレン。すると、背後で物音。 振り返る。 サイレンのきぐるみを着たリティの姿に、ショックを受けるサイレン。 サイレン「う〜〜〜〜〜っ!?」 リティ、ものすごくいい笑顔で手を伸ばす。 リティ『おともだち』 怯えるサイレン。 リティ手を伸ばす。 もっと怯えるサイレン。 リティ手を伸ばす。 全力で怯えるサイレン。 サイレン全速力で逃げ出す。おいていかれるリティ。 リティ(ああっ……!) リティ(失敗かぁ……) がっくり肩を落とす。こける。 リティ(ひゃっ!) 立てない。 リティ『助けて』 ○森の中 紙芝居風に、捕獲作戦その三。そういえば魔女でした。 対峙するリティとサイレン。 リティ『今度こそ、捕まえるんだから!』 リティ立て札を投げ捨て、両手を前に出す。手話による魔法発動。 サイレン、魔法の縄に縛られる。 サイレン「う〜〜〜!」 あさっての方向にvサインを出すリティ。 リティ『勝利』(最初から、こうすればよかったのよ) サイレン「う〜〜〜!」 リティ(これからは、ずっと一緒にいられるんだから!) サイレン「う〜〜〜〜〜〜!」 リティ(だから……) サイレン「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」 リティ『…………』 暫し、沈黙。 リティ指を鳴らすと、サイレンの戒めはずれる。 サイレン「うぅ?」 顔を上げるサイレンの前に、リティ。 リティ『ごめんね』 リティ『嫌がってたのに、私……』 サイレン「う〜」 サイレンの頭をなでようとして、躊躇うリティ。 リティ『もう、帰るね』 その場から去ろうとするリティ。 リティの後姿。夕焼け。サイレンが、リティの上着の裾を掴む。 リティ(?) 振り返るリティ。 サイレン「う〜〜〜」 見上げるサイレン。 夕日の赤が、世界を包む。 ○執務室 スターリンの銅像。 スターリン「つまり、ゆがみの原因はそいつだと」 銅像の脇にスピーカー。青いランプが、声にあわせて点滅する。 笑顔でこくこく頷くリティ。足元で、『да』の立て札を持ったサイレン。 スターリン「時空間移動種族か。珍しい」 リティ『鳴き声から、サイレンと名付けてみました』 サイレン『Меня зовут サイレン』 スターリン「知らんわ」 リティ『飼って可?』 リティとサイレン、揃って首を傾げる。 スターリン像。 スターリン「好きにしろ」 スターリン像とサイレン。 スターリン「だが飼うからには、お前が責任を持って……」 サイレン、スターリン像を叩いて倒す。 リティ『あ』 ガシャンと音を立てて倒れる像。半ばから折れる。 どこか暗い部屋。幼女のシルエットがレッドカードを取り出して。 スターリン「粛清」 突き出す山ほどの銃口。 完